平 井  伝 説
 8月5日、ナイトボムで有名な、サーフェイスのルアービルダー・平井良典さんは30才の誕生日。「小川君、今日はデカイの、獲らしてもらうデ!ガイド、期待してるから!」ということで小川健太郎(本誌)とまだ暗い池原ダムへ。出発の時点で僕は38度の風邪。首が腫れて回らない。8年ぶりの風邪ということで「今日はなんかある…」という予感があった気もする。しかし、平井さんの自己記録は60cm。これを破るのは…。さらに山科さん、明石さんらビルダー仲間に、「オレ、60釣ってくるから」とまで宣言したらしい。もはや、後には引けない。
 しかし、いざ現地に着いてみると、水位や地形の変化で思ったように回遊が読めない。いや、むしろ回遊が回ってこないのだ。とりあえずふたりともその辺にいた40cmオーバーしか釣れず、10時ごろには半ばあきらめていたのであった。どんどん容赦なく太陽が昇り、弱りきった二人は自然と日影に沿って左へ移動させられていく。
 ちょっとしたガレ場の上にさしかかった時、40cmほどのバスが見えた。「ちょっとやって見ましょか。」僕が左へ、平井さんが右へと降りる。平井さんがトップオンリーなので、僕が水中でルアーを使うと魚がスレる(フロリダバスは左から先に回遊してくるので)。心臓リグを使いたい気持ちを押さえ、いつものミニヤーガラポップ赤をキャストした。適当なキャストでチョコチョコやってると「パシュッ、パシュッ」ナマズのようなチェイスの後ヤーガラは水中に引き込まれた。メジャーを当てると「お、50cm!」しかし、リアフックがエラに掛かって、こりゃ大変、出血している。あわててリリースしたのだった。
 この一匹で「群れが来た」そう感じた僕は釣り竿をおいて、より左の崖へ群れを覗きに行こう、と進んだそのときだった。「うわー!」平井さんの声だ!振り返った僕の目の前に広がる光景。平井さんの新作ダーターを飲み込んだ波紋は、沸くように水を盛り上げている。下へ下へと突っ込む引きは、まさにフロリダバスである。「水中はやばいッス!水面まで持ちあげて下さい!」そう、底にはなにがあるかわからない。竿が柔らかいため、危険なやりとりである。「デカイー!これはいったやろ!」と平井さんは半分奇声をあげながら、なんとかキャッチして足場のよいところまで退却した。
 安全な所でメジャーを出して測る。「60ヨユウで超えてるやん!」「口閉じ65.2cmです!おめでとうございます!スゲー!食った時どんなんでした?」「…わからんねん」どうやらよそ見しながら、ダイブさせた時に突然食ってきたらしい。なんとも楽しい釣りである。
 それにしてもその後の平井さんの浮かれようは筆舌に尽くしがたく、帰りの道中いつまでも「フロリダ万歳!」とか「今日はあの夕日までオレを祝福してるね」「この渋滞すらも許せる」などとのたまっていたのであった。こんな楽しい誕生日があっていいものか(笑)。家に着く頃には、僕の風邪さえも平井パワーで遥かかなたへ吹き飛んでいたのだった。
65.2cm、回遊フロリダバス